新潟大学工学部 晶析工学研究室

融液晶析法の研究


研究概要

 この研究では、晶析工学の知見を分離精製工学分野へ応用することを念頭に、高純度結晶の製法開発を行っています。工業晶析操作における従来課題のひとつに、不純物成分が結晶の内部へ取り込まれる「インクルージョン現象」があり、このことが結晶純度の低下を引き起こす要因になっています。とくに、固体自身が融けてできるような融液から結晶を析出させる「融液晶析法」の場合、通常の「溶液晶析法」と比較して結晶化がすみやかに進むことから、インクルージョン現象が起こりやすくなります。結晶をゆっくりと成長させることが対処法になりますが、融液晶析法の場合は液体の大部分が原料成分で占められているため、難しいのがふつうです。工業的には、「晶析塔」と呼ばれる筒状の装置内で粗結晶を部分的に加熱融解し、結晶内部の不純物成分を洗い流して結晶の中をきれいにする「発汗操作」を行っています。発汗操作は、長時間行うほど結晶が純化されますが、不純物以外のきれいな部分も同時に融けてしまうため、なるべくちょうど良い時間で発汗操作を終える必要があります(最適発汗時間)。しかし、粗結晶の性状や不純物の存在箇所によって発汗の効果にちがいが生じるため、的確な発汗時間やその他条件についてまだ明確になっていない部分があります。
 私たちの研究室では、この点の解明と晶析塔操作による工学的な分離精製指針の提案を念頭に、粗製リン酸から水を除去して精製リン酸を製造する研究を行っています。具体的には「冷却晶析法」により粗製リン酸の結晶層を製造し(晶析分離工程)、そこから発汗操作を所定時間行います(精製晶析工程)。最後に、塔内に残るリン酸の結晶層を全量融解させて精製リン酸を得ます。これまでに、晶析塔内におけるリン酸結晶層の析出挙動が発核剤としての種晶性状に依存すること[鈴木2020]、精製リン酸の純度と収率の間には明確な相関関係が認められること[蓑島2019]、結晶層の内部は明確な形状を持ったリン酸結晶が密に詰まっていること[情野2019]、結晶層を構成するリン酸結晶の粒径と純度の間には明確な相関関係が認められること[赤木2020]、を明らかにしています。さらには、回分発汗曲線をもとに最適発汗時間を図上で読み取る設計法の提案[蓑島2021]、リン酸種晶に替わる発核剤の検討[香村2021]を行っています。


図 回分式晶析塔内におけるリン酸結晶の析出挙動[情野2019]


卒業論文

【修士論文】蓑島 健太「回分式晶析塔内における粗製リン酸の発汗精製挙動」(2021)
【修士論文】鈴木 亘「塔型晶析装置を用いたリン酸の分離精製」(2020)
【卒業論文】香村 賢吾「リン酸の一次核発生に関する基礎的研究」(2021)
【卒業論文】赤木 佳菜子「回分式晶析塔内におけるリン酸の分離精製挙動」(2020)
新潟大学工学部卒業研究優秀賞受賞
【卒業論文】情野 直暉「回分式晶析塔を用いたリン酸の分離精製」(2019)
【卒業論文】蓑島 健太「晶析塔内におけるリン酸結晶層の精製挙動」(2019)

研究業績

【学会発表】赤木佳菜子, 三上貴司「粗製リン酸の分離精製に関する晶析塔操作条件の検討」化学工学会新潟大会(2022)
【学会発表】蓑島 健太, 三上 貴司「回分式晶析塔内におけるリン酸の発汗挙動」分離技術会年会(2021)
【学会発表】鈴木 亘, 三上 貴司「回分式晶析塔を用いたリン酸の分離精製」化学工学会第51回秋季大会(2020)