医薬品晶析の研究
研究概要
この研究では、医薬品の有効成分である原薬を対象に、粒径かつ形状のそろった原薬結晶やそれらの造粒物を生産するための晶析操作法と操作設計式の開発を目的としています。医薬品原薬の多くはベンゼン環を持つ有機物であり、水分の割合が高い人体にとって溶けにくいものです。薬物の溶解性を向上させるには、原薬結晶の粒径を小さくする、結晶構造を変化させる、などが挙げられます。これに加えて、薬物を生体内の決められた箇所や時間に溶解吸収させるには、粒径がそろっていることが大事です。私たちの研究室では、医薬品晶析で汎用の「貧溶媒添加晶析法」を中心に研究を進めています。「貧溶媒」とは、溶解している原料成分にとって溶けにくい液体のことです。医薬品原薬の場合は、水が手頃な貧溶媒です。原薬が溶けている液体に貧溶媒である水を徐々に加えてゆくと、原薬はだんだんと溶けていられなくなり、やがて結晶となって析出する、という仕組みです。貧溶媒添加晶析法の利点は、小粒径の結晶が得られやすいことに加えて、液体に溶けている原薬成分の大部分を結晶化して取り出せるところにあります。しかし、操作の特性上、結晶化の速度が迅速になりやすいため、小粒径の結晶が得られても結晶同士で凝集して粒径が不ぞろいになりやすいという問題があります。また、冷却晶析法と同じく、粒のそろった結晶をうまく成長させていても、操作の後半になって新たに結晶核の自然発生が起こり、最終的に不ぞろいとなる問題もあります。
私たちの研究室では、これまでに、市販の解熱鎮痛剤として汎用のアセチルサリチル酸を研究対象に、回分冷却晶析法における冷却段を核発生と結晶成長の段階に合わせて分割する「2段冷却法」[伊藤2012,石川2013]、貧溶媒を何回かに小分けして添加する「多段添加法」[宮田2015]、結晶成長の速度に合わせて貧溶媒を添加する「制御添加法」[伊東2016,佐藤2018,小澤2019(カリ明礬)]を検討しています。そのほか、貧溶媒添加用ノズルの形状の研究[矢郷2014]、原薬結晶の形状を棒状から粒状に変化させて丈夫な結晶にする研究[河原2013, 高橋2015]、不純物を添加して溶解吸収しやすい結晶にする研究[太田2018]を行っています。
図 貧溶媒添加晶析におけるアセチルサリチル酸結晶の形状変化[高橋2015]
卒業論文
※印は、鶴岡工業高等専門学校(旧)晶析工学研究室におけるもの
【修士論文】佐藤 優「医薬品原薬の貧溶媒添加晶析における最適添加プロファイルの検討」(2018)
【修士論文】伊東 陽祐「アセチルサリチル酸の貧溶媒添加晶析における非線形添加プロファイルの検討」(2016)
【修士論文】宮田 智弘「貧溶媒添加晶析法を用いた医薬品原薬の結晶の製造」(2015)
【卒業論文】小澤 優晟「カリミョウバンの貧溶媒晶析における非線形添加操作の影響」(2019)
【卒業論文】太田 志穂「医薬品晶析工程における金属塩不純物の取り込みが製品原薬の結晶性に及ぼす影響」(2018)
【卒業論文】高橋 大志「アセチルサリチル酸の貧溶媒添加晶析における結晶品質挙動」(2015)
【卒業論文】矢郷 優也「医薬品原薬の貧溶媒添加晶析におけるノズル形状の影響」(2014)
【卒業論文】河原 亨子「アセチルサリチル酸の貧溶媒添加晶析におけるアスペクト比挙動」(2013)
【専攻科論文※】石川 大樹「アスピリン原薬の回分冷却晶析」(2013)
【卒業論文※】伊藤 康広「アスピリン単分散結晶の回分冷却晶析」(2012)
研究業績
※印は、鶴岡工業高等専門学校(旧)晶析工学研究室におけるもの
【紀要論文※】石川 大樹, 伊藤 康広, 三上 貴司「医薬品原薬の回分冷却晶析工程における溶媒組成および過飽和度の影響」鶴岡工業高等専門学校紀要,
第47号, 59-64 (2013)
【学会発表】佐藤 優, 三上 貴司「アセチルサリチル酸の貧溶媒添加晶析における粒径分布挙動」化学工学会東京大会(2017)
【学会発表】伊東 陽祐, 三上 貴司「アセチルサリチル酸の貧溶媒添加晶析における添加プロファイルの検討」化学工学会福島大会(2016)
【学会発表】宮田 智弘, 三上 貴司「アセチルサリチル酸の貧溶媒添加晶析における粒径分布挙動」化学工学会新潟大会(2014)学生奨励賞受賞
【学会発表※】T. Mikami and D. Ishikawa: Unseeded 2-stage batch cooling crystallization
of acetylsalicylic acid, Joint Congress of Asian Crystallization Technology
Symposium-2014 & 11 th International Workshop on Crystal Growth of
Organic Meterials (2014)
【学会発表※】石川 大樹, 清野 惠一, 米澤 文吾, 三上 貴司「アスピリン原薬の回分冷却晶析」平成25年度東北地区高等専門学校専攻科産学連携シンポジウム
(2013)
【学会発表※】石川 大樹, 伊藤 康広, 三上 貴司「アスピリン単分散結晶の回分冷却晶析における過飽和度の影響」化学工学会第44回秋季大会 (2012)
【学会発表※】D. Ishikawa, Y. Ito and T. Mikami: Batch crystallization of aspirin
to obtain monodisperse pharmaceutical crystals, 19 th International Workshop
on Industrial Crystallization (2012)
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